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あいあむ マエッチョ

高井良純のブログ ミュージカル 作・作曲・演出家

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◎  終 電 車       

大阪駅発新三田行き終電車、娘と二人飛び乗ると同時にドアが閉まった。

仮住居の為この沿線に住む事になって数日経ったある日のこと、朝が早かったせいかコトコトゆられていると急に睡魔が襲ってきた。
西宮名塩駅迄約30分。

“寝てはいけない…寝…て…は………”

風がすーっと通り抜けドアの閉まる音がした。
ハット車窓を見る。

「アッー。」

仕方がない。
次の駅からタクシーで帰ろう。

降りた駅はトンネルの中、電車が走り去ったホームは真っ暗になった。
急いで階段を降りると、ひなびた無人の改札口に武田尾駅と書いてある。

数本の街灯が道路を照らしているが、公衆電話がひとつあるだけで、タクシーはおろか人っ子一人いない。
おまけに黒々と横たわる川が、ザワザワと不気味な音をたてている。
K旅館の看板が目に入った。

「よし。ここに泊めてもらおう。」

照明のない真っ暗なトンネルを通り抜けると、川音が一層激しくなり鬼気迫る巨大な岩の群れがこちらを睨んでいる。

脅えた娘は私の腕をは掴んで離さない。

吊橋があり昼間は絶景なのかもしれないが、まるで暗黒の魔境。

やっと旅館を見付ける。
「コンバンワー……スミマセーン!」
何十回叫んだ事か。

しかし、何の応答もない。

やむなく駅に戻って電話するが、出ない、タクシーも出ない。

湿った生暖かい風がゾゾッと顔を撫でてくれる。
「ウーッ、何とかしなければ。」

とその時、霧に覆われた山間から、数本ライトが轟音をたててこちらに向かって来るではないか、今度は暴・走・族・?
不安は全身に広がる。
やがて彼等は道路脇に車を止めた。

「110番してッ!」

娘の声が終わらぬうちに、私はダイヤルを回していた。



初めて乗ったパトカーは、猪でも通りそうな山道をガタガタと下っていく。

やっと街の明かりが見え緊張感が解けていく。

「お巡りさん、本当にありがとうございましたー。」


文:高井良純
1997年6月30日 神戸新聞夕刊「随想」より転載

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JR新三田(しんさんだ)駅
JR武田尾(たけだお)駅
JR西宮名塩(にしのみやなじお)駅
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